ハンガリー人と日本文学の出会い*
『古事記』『源氏物語』『方丈記』『怪談牡丹灯籠』『吾輩は猫である』『ノルウェイの森』**―これらの共通点はハンガリー語でも楽しめるということである。しかし、19世紀のハンガリー人は一体日本文学についてどの程度の知識を持っていたのか、どのような作品をハンガリー語で読んでいたのであろうか。日本文化や日本事情を紹介する記事を集めた資料集(Buda Attila編)を見てみると、日本文学や日本人の読書習慣などに関するものは断片的であり、基本的に外国語の文献から得た情報に基づいている。例えば、
「日本の文学はヨーロッパでほとんど知られていないのは遺憾である。我々が持っているわずかな日本の書籍を見るかぎり、この民族は歴史書と文芸をはじめ様々なジャンルの本を持っている。」(A Japán Birodalom『日本帝国』1834年)
「階級を問わず、読書好きが多く、見張りをする兵士まで本を読んでいる。子供や女性の読書に耽っている姿もよく見られる。」(Japan és népe『日本とその民族』1869年)
「現在西洋の文明国家の言語に翻訳されていないため、日本の戯曲の文学的価値を見極めることが難しいが、まだ揺籃期にあるという可能性がある。」(Japán hajdan és most『古今の日本』1875年)
などのように紹介されている。
19世紀末の百科事典A Pallas Nagy Lexikona(『パラス大事典』1893~1897)の「日本語と日本文学」の項目に『万葉集』『古今集』『平家物語』などの名前も見られるようになる一方、1903年に出版されたEgyetemes irodalomtörténet(『世界文学史』)に「中国と違って日本に固有の文学がない」といった間違いが書かれている。
19世紀前半にハンガリー語で読める日本文学として「天地開闢」「国生み神話」「神武東征」といった神話や歌が挙げられる。19世紀末・20世紀初頭になると、ハンガリー語に訳された文学作品も少しずつ増えていく。1901年にAkantisz Viktorが『青少年のための日本昔話』(Japáni mesék az ifjuság számára)を世に出した(彼はのちに日本語の会話集も執筆する)。日本滞在の経験があるBarátosi Balogh Benedekが1906年に日本文学史を書いたが、その中に『竹取物語』『浦島太郎』『桃太郎』『羽衣』『花咲爺』、樋口一葉の『別れ霜』などの翻訳も収録されている。
ハンガリーの出版物に掲載された作品に日本語の原文(ローマ字表記)が洪訳と一緒に併載されているものもある。例えば、1832年刊の雑誌に日本の「ラブソング」が登場する(引用文のローマ字を仮名文字に直した)。
アイタカンベエ
カヲミタカンベエ
ママニハナシヲ…【後略】
或は雑誌 Összehasonlító Irodalomtörténeti Lapok(『比較文学史』1884年)に以下のような「官能的な民謡」が紹介されている(引用文を仮名文字に直した)。
オマエトワタシハ
オクラノコメヨ
アスカヨニデテ
マンラトナル
(「マンラ」は「マンマ」の誤りか)
また、東洋史学者の白鳥庫吉(1865-1942)が1902年にハンガリーを訪問した際に詠んだ短歌もハンガリーの雑誌に載せられた(Vasárnapi Újság第49巻17第号)。これもローマ字表記であるが、誤植が多い。以下で漢字仮名表記の復元を試みた。
立ち別れ
幾世経ぬらむ
同胞の
古(の?)語れ
春の夜の月
この時代にローマ字表記ではなく日本語の文字で書かれた作品をそのまま載せた雑誌・書物の存在に関しては不明であるが、百年経った今では松尾芭蕉の俳句や『方丈記』のように原文とハンガリー語訳を同時に鑑賞できるようになっている。
参考文献・資料
Buda Attila szerk. (2010) Messziről felmerülő vonzó szigetek I. -
Japánról szóló, magyar nyelvű ismertetések a kezdetektől 1869-ig. Ráció Kiadó.
Buda Attila szerk. (2012) Messziről felmerülő vonzó szigetek II/1. -
Japánról szóló, magyar nyelvű források 1870-től a japán-kínai háborúig. Ráció
Kiadó.
Tóth Gergely (2010) Birodalmak asztalánál. Ad Librum.
Tóth Gergely (2018) Japán-magyar kapcsolattörténet 1869-1913.
Gondolat.
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『月刊ハンガリージャーナル』2019年12月号に掲載した記事に一部加筆変更をしたものです
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“Ko-dzsi-ki: Régi történetek feljegyzései” Kazár
Lajos, Magyar Történelmi Társulat (1982)
”Gendzsi regénye I-III” Tőkei Ferenc / Hamvas Béla/ Julow Viktor, Európa
Könyvkiadó (1963)
”Gendzsi szerelmei, I-III” Gy. Horváth László, Európa (2009)
”A fűkunyhóból” Fülöp József / Szemerey
Márton, Gondolat (2017)
”Kísértetlámpás” Bratka László /
Vihar Judit, Széphalom Könyvműhely (1994)
”Macska vagyok” Erdős György /
Gy. Horváth László, Európa Könyvkiadó (1988)
”Norvég erdő” Nagy Mónika, Geopen
Könyvkiadó (2018)
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