6月29日に放送された「未来世紀ジパング」にハンガリー人である私にとっても面白い所があって、例えばスズキ工場の事情を初めて知った。
しかし、最初の十分に、首を傾げる様な発言が幾つかあった。
まず、姓名の順番を紹介して
「名字と名前の順番が日本と同じなのはヨーロッパではハンガリーだけ」
「これには訳があるという」
「それを解く鍵がハンガリー国立アカデミーに残されていた」
と。
次に、ショムファイ教授が登場して、『ツラン民族分布地図』というものをカメラに見せたら、
「なんと日本人とハンガリー人はルーツが同じだと分かった」とナレーションが。
また、ショムファイ教授が地図で中央アジアの辺りを示しながら、
「言語を見ると中央アジアのこのあたりからハンガリー人はハンガリーへ日本人は日本へと渡ったと考えられます」と述べた。
先ず第一に、ハンガリーで名字が成立し、確立したのは、貴族の場合は15世紀ごろ、下級民衆の場合は16世紀~17世紀ごろだと言われている¹ので、それを日本と結びつけようとするテレビ東京は無知にしか見えない。
また、「ツラン民族分布地図」のことだけど、『ツラン民族分布地圖(解説書)』² という書物がある。これを繙くと、例言に
「ツラン民族分布地圖は言語、人類、人種、考古、民俗並に歷史上の學説を參酌し、綜合して著者獨自の見解により編纂したものであるから、個々の專門學説とは必ずしも一致するものでない」
とある。 (下線は投稿者による)
なお、9頁の第五章 日鮮ツングース(一名南部ツングース)を見ると、日本人の説明として
「日本人も朝鮮人と能く似た民族構成であるからこれもツングース系と見てよからう言語はウラル・アルタイ語系であるが單語は朝鮮人と同樣雜多なものを取入れ一種獨特の文化を創造してゐる」
と書かれている。(下線は投稿者による)
この「ウラル・アルタイ語系」説とは、元々19世紀末のヨーロッパで生まれたが、現在までウラル語族とアルタイ語族の親縁関係は未だ証明されるには至っていない。また、アルタイ語族に関しては、それらの言語が共通祖語から分れたのではなく、何千年もの間接触して言語連合(Sprachbund)が成立したという見解もある。³
ショムファイ教授の発言に関していうと、それはツラン主義の考えを紹介したものなのか、教授独自の見解なのか、曖昧だけど、いかにも現在の定説であるかのように放送された気がする。
いずれにせよ、テレビ東京はハンガリー人の名字に就いて調べようとせず、さらに「著者獨自の見解により編纂したものであるから、個々の專門學説とは必ずしも一致するものでない」地図を取り上げ、「日本人とハンガリー人はルーツが同じだと分かった」と無責任かつ非科学的な発言をした。
洪(ハンガリー)日関係史に面白いエピソードが沢山あるのに、テレビ東京はそれを採用せず、トンデモ説の方を選んだ。非常に残念だと思う。
1 Bárczi Géza-Benkő Lóránd-Berrár Jolán: A magyar nyelv története. Tankönyvkiadó, 1982. 381頁
2 北川鹿蔵著『ツラン民族分布地圖(解説書)』日本ツラン協会、1933年
3 村山七郎・大森太良共著『日本語の起源』弘文堂、1973年
3 村山七郎・大森太良共著『日本語の起源』弘文堂、1973年
やはりテレビの情報はいい加減なところもあるのですね。
返信削除そうですね。鵜呑みにしてはいけませんね。
削除「フィンランドとエストニアの場合、ハンガリーと同じように成立した姓名の順番は、スウェーデンまたは独逸の支配、言語的・文化的影響によって変化したが、非公式の場合姓+名の順番も使われている」
返信削除"A finn és észt esetében az eredetileg a magyaréhoz hasonlóan kialakult személynévsorrendet a svéd, illetve német uralom, nyelvi-kulturális hatás formálta át (bár informális helyzetekben használják a családnév + keresztnév sorrendet is)"
Farkas Tamás: Családnévrendszer, névhasználat, névváltozás nyelvi-kulturális kontaktushelyzetben. Névtani értesítő, 31. 2009